日本の音楽神経学の最先端を走っていらっしゃる先生が執筆した、最近出た本です。
まずとてもわかりやすく音楽の脳科学をまとめています。そもそも音楽を脳科学で説明する動きが盛んになったのはここ数十年のことで、今どんどん知見が更新されているとてもホットな分野だと思います。
音楽を聴くと無意識のうちに過去の音楽を聴いた体験から次の音楽を予測していて、それに対しての実際聞こえてくる音との違いに”びっくり”して、快感という報酬が生まれることが実証されていて、そのバックグラウンドのことを一から丁寧に、かつ簡潔に説明しています。
この本の主なテーマは題名にもある通り、脳がどのように創造性を生み出さすかということですが、 それまでに先生が説明してきた、音楽の知覚・予測と期待・記憶・報酬についてを踏まえた上で、全ての筋が繋がるように構成されていてとても分かり易かったです。 この本の良いところは最新の科学の知見を説明するだけでなく、それに基づいて、日常生活の中でどのように創造的な発想力を高めるための実践ができるかを提案しているところだと思います。
例えば、課題解決に取り組んでいるときに、一旦問題から離れてみること。 散歩に出かけるなどして、意識的にぼーっとする時間を作ることが創造的なひらめきが浮かぶきっかけになると説いています。 私も疲れた時や課題に行き詰まった時に散歩をするのですが、ぼーっと考えているときにひらめいたりするのは、脳が潜在的に考えてくれてるからなんだな、と実感しました。 また、特にこの本では睡眠の重要性・睡眠中に何が脳で起きているか詳しく書いています。睡眠学習についても。もっと創造的になりたいので、実践してみます。笑
音楽神経科学の知見では、予測が難しすぎる音楽や簡単すぎる音楽だとつまらなく、”ほどほどに”な複雑さの音楽が一番気持ちいいということがありますが、この本の構造もそうなっているんじゃないかと、ふと思ってしまいました。 というのは、一度前に説明した内容を何回か復習するようにまとめつつ次のテーマを説明していて、緩急つけながら読めたので…。考えすぎかしら。
『芸術作品を創造するためには、外来的・潜在的な“斬新さ”そのもの(単純に過去とは違うもの)を求めるだけだけではなく、内面から湧き出るような、より内発的・潜在的な“不確実性”を探求するような内発的意欲が重要』
p.s.
よく、コロナがなければこうなっていただろうにな、こんなことができていたのにな、と寂しくなります。夏に留学したかったし、室内楽のセミナーも行きたかったし、演奏会も開きたかった..
でもこの期間にじっくり音楽神経科学についてじっくり勉強できてよかったです。 結局音楽がなぜ生存に必要で無いのにも関わらず(例えば、睡眠、食事は生存に必要な報酬です)、人間は音楽から快感という報酬を得ることができるのかに始まりますが、
音楽はそれでもなお人間にとって必要で、そこから私たちは多くの感情を経験し、満足を得ます。 音楽神経学で、なぜ音楽によりを脳で「情動・感情*が生じるか」に関して、理解を深めることができますが、 ひいてはその所見は、いくつかの疾患の病態の理解にもつながり(例えば自閉症)、 かつそこがわかれば音楽を使って治療することができるということを表していることがわかり、今後さらに自分も知見を深めていきたいと思いました。
情動:外的刺激や内的な記憶の想起で生じる生理的反応で、外部から測れる。感情:主観的な意識体験。自分しかわからず、測れない。2つは厳密には別物です。