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Kanon Kobayashi/ 小林香音

「センスを磨く」2024.8.30


慶應医学部新聞(学内誌)の天声人語的コラム「鑑往知来」を執筆する機会を頂きました。


"センス"という概念を鍵に、音楽、絵を描くこと、臨床医学をつなげて書いてみました。

文章が後戻りできない形で残るのはいつでも恐ろしいですが、今の私の等身大で、思考を形にしてみました。

下に原文を貼ります


…そうなのです、ずっと絵を描いてみたかったという思いはあったので、思い立って絵画教室に申し込みました。一つの対象を、穴が開きそうなほど何時間も見つめて観察する経験は、とても新鮮で、今回の内容を思い立ちました。


紹介した『センスの哲学』という本は、どなたにとってもおすすめです。どの業界においても共感できる点はあるのではないかと思うと同時に、普通の生活にも芸術を見出すことができることに気づかせてくれる本です。(読書録もたまに更新しているのでインスタご覧ください)


新聞一面は一般公開されております↓


以下原文です📝

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 「臨床のセンスを磨いてきなさい。」 内科学教室(神経)中原仁教授から初期臨床研修開始の際に頂いた言葉を、事ある毎に思い返す。センスとは何か。情熱、努力、知識量、費やす時間を前提としても、必ずしもセンスの良さには結びつかないと、私は今までの経験から感じてきた。


 ヴァイオリンを幼少期から弾き続けている。私の師匠が、理論的に説明しつつも「あとはセンスだから」と実演してくれた場面が脳裏によぎる。間の取り方、呼吸、運弓やヴィブラートの種類と速度など、分析できる要素はいくつもあるが、そのまま真似してもうまくいかない。師匠の音を一つの例とし、試行錯誤に戻る。自分で良いなと気づいた音楽の要素が伝わるよう心を配り、理想の音を探していく。


 私の好きな哲学者千葉雅也氏の新刊の題名が丁度『センスの哲学』だ。ディテールがどうなっているか観察して言語化する練習をしていくことで、センスを後天的に育成できると説く。ミクロな視点で見ると、並ぶ要素には変化や緩急やうねりといった、千葉氏が呼ぶところの「リズム」があると気づけるようになる。


 ある時絵画教室で林檎を模写した。「林檎が置かれた台に反射する影には赤みがあるはずだ」と先生に指摘された。私は灰色の濃淡で影を描いていた。赤を重ね、さらに影の深みに少しの青を入れてみると、影に立体感が出た。細かく観察してはじめて気づける要素がある。全体からどの要素を良い・面白いと思って取り出し、どう並べるかがその人のセンスになる。

 

 内科の後期臨床研修開始から月が経つ。臨床でも大枠の転帰だけでなく、日々大小様々な展開がある。細かい身体診察や検査データをよく観察して得られる所見のうち、何を有意ととり、どう総合的にアセスメントするか。また諸先生方はそれぞれの展開にどう対処しているか。観察し、言語化することがセンスを磨く訓練になるのだろう。細部の観察にこそ何事にも通じる神髄がある。


(内科学教室(神経) 小林香音  101回)

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