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Kanon Kobayashi/ 小林香音

ファリャ『スペイン舞曲』(クライスラー編)


ファリャはスペインの作曲家で、マドリードでピアノと作曲を学び、舞台音楽作品を数多く作りました。作曲を学んだ師の影響で、スペイン民族音楽、とりわけフラメンコに興味を持ち、多くの作品にその影響が見られます。今回演奏する『スペイン舞曲』は、ファリャが1905年に作曲した"はかなき人生"というオペラからの抜粋です。第2幕から、クライスラーがヴァイオリンとピアノ用に編曲しました。


 

オペラ自体は1時間という短さであり、現在ではほとんど上演されていませんが、特に第2幕の間奏曲と踊りの部分は、1926年にクライスラーが編曲して今回演奏する曲にしたこともあり、スペイン音楽のコンサートでよく演奏されています。

オペラの物語は以下の通り。


ジプシーの女が若くて裕福な男に情熱的に恋をしているが、男は別の女と婚約している。ジプシーの女が結婚式場に怒って現れると、逆に男がジプシーの女に出ていけと命じ、あまりのショックでジプシーの女は男の足元に崩れ落ちて死んでしまう。


今回演奏される部分は、第2幕の冒頭で新婚の男と女が結婚式を挙げていて、招待客たちが踊っている場面です。

参考までに動画を引用します。


オーケストラの原曲に合わせてフラメンコを踊るダンサー


(画像はスクリーンショット)




こちらはオーケストラに合わせてソロのカスタネットの演奏。こんなにかっこよく毅然と鳴らせるんですね(驚き) 。一瞬動作がパッと止まるところ(日本の歌舞伎の見得を切るに近い?)がキレッキレでかっこいい。


(画像出典は同上)





ファリャ自身による改訂版のオペラにおいての同じ場面の上演の様子



この曲を編曲した、オーストリア出身の名ヴァイオリニストであるクライスラーは、作曲家としても、幅広い聴衆層にアピールできるような、華やかでかつお洒落な数々の小品の作曲を行いました。


クライスラーのキャリアは稀有で波乱に満ちています。ウイーンで神童として演奏活動をスタートしましたが、医学部に入り、外科医を志した時期もあります。また第一次世界大戦で祖国オーストリアの陸軍中尉として従軍した際に重傷を負って瀕死になったものの救助され、その後アメリカに移住し、各地で演奏を行いました。しかしアメリカがオーストリアに宣戦布告すると、敵国の演奏家であるクライスラーに対する風当たりも強く、演奏活動を中止せざるを得ませんでした不遇の時期もありましたが、舞台に復帰し演奏活動を続けました。1924年からは10年間ベルリンに住み、この曲はその時期に編曲されました。


戦前にキャリアを積んでいたクライスラーは、コンサートを彩るような、かつあまり知られていない曲が不足していることに気付きました。そこで、遠い昔の忘れかけられていた作曲家のスタイルを真似して作曲しました。そのように”盗作”された音楽はクライスラーのコンサートの人気曲となりました。


このような模倣の事実をクライスラーがインタビューで認めた際には一大騒動になりましたが、クライスラーはこれらの作品を書いた当初の理由を説明し、誰も模作によって被害を受けていないと主張しました。クライスラーはこの論争を乗り切り、彼の人気は衰えることがありませんでした。


今回のファリャのスペイン舞曲を初め、クライスラーの編曲がなければ歴史の中に埋もれていったかもしれない作品たちは多いでしょう。コンサートを彩り多くの人を魅了する数々の小品たちを生み出したクライスラーの功績は計り知れません。



References

"Kreisler, Fritz ."Encyclopedia of World Biography. . Retrieved October 16, 2020 from Encyclopedia.com:https://www.encyclopedia.com/history/encyclopedias-almanacs-transcripts-and-maps/kreisler-fritz

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